Harmonica - Franz Chmel - Variations on Carnival of Venice (J.P. Arban)

フランツ・クメル(Franz Chmel 1944年2月26日 - 2016年8月18日)

オーストリアのクラシック・ハーモニカ奏者で1995年の横浜世界大会のガラ・コンサートに出演しました。私は舞台袖で彼を送り出したことを覚えております。1994年にリリースされたCD「FANTASIA BAROQUE」が大会で売り出されて購入しましたが、「チゴイネル・ワイゼン」や「ベニスの謝肉祭」を聴くと、その超絶技巧振りに驚きました。その技量は毎日8時間、週に2本はリードを折ってしまうという猛練習に支えられているとのことでした。

生徒を取らない主義だったらしいのですが、ニューヨークに住む日本人女性がせがんで生徒になって、10年ほど訪墺しながら学んだりお付き合いした追悼記を当会報150号に寄稿してくれました。とても恥ずかしがり屋の謙虚な人で、単に技巧を追うだけでなく、作曲者の意図を良く理解して音楽性を高めていたとのこと。クラシック・ハーモニカのビブラートというと、ドイツ流のハンド・カバー奏法が主流になっていますが、彼は意に介せずに自分流の喉を使ったビブラートを追及しました。

後年、演奏しても壊れないクロマチック・ハーモニカを作ることに情熱を傾け、上質のステンレス・スチールのリードを使ったNC64完成させましたが、その頃には癌に侵され、3週間の昏睡状態から回復、抗がん剤を取りながらの日常生活に戻ったものの、82歳で帰らぬ人となりました。NC64は3本しか作られず、自分用、愛弟子用、日本人女性用しか存在しないとのことでした。私は幸い、彼女から5分程試奏させてもらいました。